東京地方裁判所 平成7年(行ウ)201号 判決
原告
喜多商事株式会社(X)
右代表者代表取締役
喜多正男
右訴訟代理人弁護士
河崎光成
被告
東京都渋谷都税事務所長(Y) 守谷義明
右指定代理人
友澤秀孝
同
宮本治樹
同
鈴木朗
"
事実及び理由
第三 争点に対する判断
一 争点1(本件免除否認処分の違法性)について
1 法五八五条以下に規定されている特別土地保有税は、土地の取得及び保有に伴う費用を増大させることにより、土地の投機的な取得を抑制するとともに、土地の供給を促進することを目的として創設されたものであるが、投機目的で取得され、保有されている土地か否かの判断が困難であることなどから、当初は、当該土地の利用の有無を問わず一津に課税されることになっていたものである。しかしながら、その後、既に社会通念上相当程度の水準の利用がされ、最終的な需要に供されていると認められるような土地についてまで特別土地保有税を課することは適当ではないという考慮から、かかる場合には、いったん発生した納税義務を免除することとし、昭和五三年の法改正により法六〇三条の二の納税義務の免除制度が設けられたものである。そして、右のような免除制度創設の経緯からすれば、未利用の土地はもとより、将来の売買を見越して仮の利用に供されているに過ぎない土地についても免除の対象とすべきではないことになるが、具体的な個々の土地について、最終的な需要に供されているか、将来の売買を見越して仮の利用に供されているに過ぎないのかの判断は困難であるから、その具体的運用における不公平を避けるべく、法六〇三条の二第一項は、前者であることが明確なもののみを対象とすることにして外形的、客観的な基準を導入し、かつ、個別具体的に課税庁の認定にかからせる方法によることとしたものである。すなわち、同項一号は、当該土地上の建物又は構築物の構造、利用状況等が恒久的な利用に供される建物又は構築物に係る基準として政令で定める基準に適合することを要件とし、右基準として地方税法施行令(以下「法施行令」という。)五四条の四七第一項一号は、その構造及び工法からみて仮設のものではないことを、同項二号は、その利用が相当の期間にわたると認められることを定めており、また、法六〇三条の二第七項、五八六条四項は、右判定は、基準日の現況によるものとしてるのである(なお、法七三四条一項により、都は、その特別区の存する区域において、特別土地保有税を課するものとされ、この場合には、都を市とみなして右規定が準用されることになり、免除をする者は都知事となるが、法三条の二及び本件条例四条の三の規定により、特別土地保有税に関する都知事の権限が被告に委任されている。)。
右のような免除制度の趣旨やその規定に照らせば、当該土地が法六〇三条の二第一項一号の免除対象土地に該当するか否かは、専ら基準日において当該土地上に右免除要件の基準に適合する建物又は構築物が存在するか否か、あるいは、少なくとも右の基準に適合する建物又は構築物が建築途上にあるか否かという外形的事実に基づいて客観前に判断すべきものと解するのが相当である。したがって、基準日に、当該土地上において右の基準に適合する建物又は構築物の建築の着工すらないような場合には、仮に、基準日においてかかる建物等を建設する具体的な計画が進行中であり、所有者が投機目的で当該土地を保有するものではないことがうかがえるとしても、当該土地が免除対象土地に該当するということはできないものといわざるを得ない。
本件についてこれをみるに、本件土地は、基準日である平成三年一月一日時点では更地であり、建物等の建築工事の着手もされていなかったことには当事者間で争いがないのであるから、法六〇三条の二第一項一号の土地には該当しないものというべきである。
2 これに対し、原告は、基準日において土地上の建物の建設が未だ着手されていなかったとしても、将来恒久的な建物等の施設の用に供されることが確実であると認められる土地については、右免除の対象とすべきである旨主張する。
しかしながら、既に説示したとおり、法は、免除対象土地に該当するか否かを基準日における現況により判定するものとしているのであって、基準日前後における当該土地の利用状況を基準日における現況を判定するにあたっての補助的な事実として斟酌すること(とりわけ、法施行令五四条の四七第一項二号の、その利用が相当の期間にわたるという基準は、基準日の現況のみでこれを判断するのは困難であるから、所有者の利用意思、建物の具体的な利用状況等基準日前後における事実を総合的に考慮して認定することが必要となる。)はともかく、基準日において当該土地上に何ら建物等の着工がみられないような場合にも、基準日経過後に当該土地の恒久的な建物等の敷地としての利用が開始されたことを理由に免除対象土地と判定する余地を認めることは、基準日における外形的事実に基づく判断によって納税義務者間の不公平を避けようとした免除制度の趣旨に反することが明らかであるから、原告の主張は採用することができない。
3 また、原告は、特別土地保有税申告の手引には、免除対象土地に当たるか否かは基準日を中心とする一定の期間における土地の利用状況を勘案して判定する旨明記されているから、基準日を中心とする一定期間内に土地上の建物等の建築に着工された本件土地のような場合には、かかる事情を勘案して免除対象土地と判定すべきである旨主張する。
確かに、甲一五号証の一、二(特別土地保有税申告の手引)によれば、原告が指摘するような記載が右手引中にあることが認められる。
しかしながら、基準日の前後における事実であっても、それが基準日現在の事実を推認させる補助的な事実であればその限度でこれを斟酌すべきであるのは既に説示したとおりであって、手引中の記載も右の理由を述べたものに過ぎないものというべきところ、基準日には未だ更地であって、建物の着工はもとより建築確認申請すらされていなかった本件土地の場合には、いかに基準日後の事情を斟酌しても、基準日において法六〇三条の二第一項一号の土地に該当するものと判定される余地は全くないことは前示のとおりであるから、原告の右主張は失当である。
4 したがって、本件土地が免除対象土地に当たらないとしてされた本件免除否認処分は適法である。
二 争点2(減免申請及び減免をしない旨の処分の有無)について
1 法六〇五条の二は、「市町村長は、天災その他特別の事情がある場合において特別土地保有税の減免を必要とすると認める者その他特別の事情がある者に限り、当該市町村の条例の定めるところにより、特別土地保有税を減免することができる。」と規定しており、これを受けて、本件条例一五四条一項各号列記以外の部分は、特別土地保有税の減免につき「次の各号の一に該当する土地又はその取得のうち、知事において必要があると認めるものに対して課する特別土地保有税の納税者に対しては、規則で定めるところにより、当該特別土地保有税を減免する。」と規定し、同条三項各号列記以外の部分は、「第一項の規定によって特別土地保有税の減免を受けようとする者は、次の各号に掲げる事項を記載した申請書にその事由を証明すべき書類を添付して、これを知事に提出しなければならない。」と規定している。
これらの規定からすれば、原告が本件土地について法六〇五条の二の規定による特別土地保有税の減免を受けるには、本件条例一五四条所定の減免申請書を被告に提出しなければならないことは明らかであるところ、弁論の全趣旨によれば、原告はかかる申請書を提出していないことが認められ、被告において法六〇五条の二の規定による減免をしない旨の処分をした事実は全くうかがわれない。
2 これに対して、原告は、被告から送付を受けた書類中には法六〇五条の二に定める減免の申請書用紙は含まれておらず、同じく被告から送付された解説書中にも減免申請という申請制度の存在やその手続についての説明はなかったこと、本件申請書や経過説明書中の記載には、本件条例一五四条三項各号に定める減免申請書の記載事項が実質的に全て含まれていることなどを理由に、本件申請書は減免申請書としても認められるべきである旨主張するが、原告が取消しを求める減免しない旨の処分の存在については何ら主張しておらず、原告の右主張自体失当なものといわざるを得ない。仮に、原告の右主張が、本件免除否認処分に法六〇五条の二の規定による減免をしない旨の処分が含まれているという趣旨であるとしても、法が六〇三条の二の免除制度とは別に六〇五条の二の減免の規定を設けた趣旨や、本件条例が、法六〇三条の二にいう免除を受けるための申請については、前記減免申請とは別個に一五三条の二にその手続を定めていること、法六〇三条の二第四項も、都知事が免除の認定を行うについては特別土地保有税審議会の議を経なければならないとして減免の場合とは異なる手続を定めていること、地方税法施行規則(以下「法施行規則」という。)一条の七第五条及び二〇号によれば、不服申立手続も別個にし得るものと解されることなどに照らせば、減免申請及びこれに対する処分と免除申請及びこれに対する処分とは別個独立のものというべきであり、本件免除否認処分に法六〇五条の二の規定による減免をしない旨の処分が含まれているということはできないものといわざるを得ない。
さらに、本件申請書は減免申請書としても認められるべきである旨の原告の主張についてみても、右のとおり、免除申請と減免申請とは別個独立のものというべきところ、甲一三号証の二(本件申請書の控え)によれば、本件申請書は、法六〇三条の二の免除申請をする際の申請書として法施行令五四条の四八第一項及び法施行規則一六条の二四によって定められた様式のものであることが明らかであって、文面上も、その表題部に「特別土地保有税免除認定申請書」、申請者欄の下部に「下記の土地について地方税法第六〇三条の二第一項の認定を受けたいので、申請します。」と各明記されており、減免申請書に記載すべき「減免を受けようとする事由」の記載はなく、原告が本件申請において提出した経過説明書(乙五号証)の記載も、右各事由を補完する趣旨のものとは認められない。また、天災等特別の事情がある場合にのみ認められる減免について、被告から送付された書類中にその申請書用紙が含まれておらず、被告から送付された解説書中に申請手続等の記載がないため、仮に原告が右解説書を読んで免除の申請手続において減免事由に該当するような主張ができると信じたとしても、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠性にしてもなお信義則等の一般法理を適用して原告の右信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情は未だ認められないものというほかはなく、本件申請書が本件条例一五四条三項所定の減免申請書としても効力を有するものと認めることはできないから、原告の右主張が採用できないことも明らかである。
3 以上のとおり、被告が本件免除否認処分に包含して法六〇五条の二にいう特別土地保有税の減免をしない旨の処分をしたものとはいえないことは明らかであるし、原告は本件土地に係る平成三年度の特別土地保有税の減免申請を経ていないというべきであるから、被告が納税義務者の申請があって初めてすることとされている法六〇五条の二の減免に関する処分をしたことは何らうかがわれないところである。
そうすると、本件訴えのうち、本件土地に係る平成三年度の特別土地保有税について法六〇五条の二に定める減免をしない旨の処分の取消しを求める部分は、訴えの対象を欠く不適法なものといわざるを得ない。
(裁判長裁判官 富越和厚 裁判官 竹田光広 岡田幸人)